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ナンセンスな問い [本・雑誌あれこれ]

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(友田とん/HAB)
 くすっと笑って可笑しな気分になってほしい、という文章が詰まった本。

 例えば、冒頭の「共同開発されたうどんをめぐって」では、八社会について考えている。
 これは、私鉄系スーパーマーケットの共同組織なのだが、その八社が出てこない。山手線の駅を思い出し、そこから出ている私鉄を列挙していけば見つかるのでは、と思いつくのは確かに良い手がかりだと思うのだが、七社しか出てこない。あるいは、首都圏に限らず愛知や京阪神もか、そうすると八社を大幅に超えることになる――という行ったり来たり。
 一時、フェルミ推定がもてはやされたことがあったが、そういう頭でっかちな感じとも違う。自分の知っていること、目に見えること、それかわかること、想像(または妄想)が繰り広げられていくのをニヤニヤしながら楽しみ、時には自分もふらふら考えてみるのである。

 文章の中ではググることを避けているが、現状の八社会がどうなっているか、という正解はググるとわかる。経緯も含めて割と意外な結果である。

 そういう文章が並んでいる。頭から読んでもよいし、つまみ読みもできる。是非、可笑しな気分になってほしい。

 それにしても「湿潤したお品物」ってなんだったんだろう。
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たやさない [本・雑誌あれこれ]

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 仕事なり事業なりを始めた後、つづけていく、というところに主眼を置いた「つづけつづけるためのマガジン」の第二号。

 最初の文章は、発行者が惚れ込んで原稿を依頼した「菓子屋のな」という和菓子屋さん。確かにすごい文章、すごい説得力。

 小鳥書房さんは、出版社であり書店であり。書店のことを「自分ごととして大事にしてくれる仲間が増えていった」とあるのだが、これが場が維持される要件なのだろうな、と思う。『松江日乗 古本屋差し入れ日記(ハーベスト出版)』にもそういう雰囲気がある。
 前に文学賞を開催していて、俺も応募したのだが、まったく書けなくて往生した。締め切り前日の昼過ぎにやっと降ってきたのだが、それから書いて推敲して、では内容も表現もどうしようもないレベルにしかならず、「(文字通り)話にならんな」と思いながら送信ボタンを押した。結果は言うまでもない。

 作曲家の高木日向子さん。「作曲家」と名乗ることに違和感がある、という真摯さがすごいと思った。

 アフリカドッグスの中須俊治さんは、“Go to Togo(烽火書房)”の著者。「就職活動をやめてアフリカを目指した」というと夢多き青年というイメージを抱きがちだが(学生たちの前で話をするとくいつきがいい、というのはその点だと思う)、この文章では新しい事業について金融面からの検討が加えられており、その冷静さに驚く(驚いているのは、俺が最初に抱いたイメージから脱却できてない、ということだが)。 
“Go to Togo”はこないだの「本処」でお買い上げいただいた。縦書きと横書きが混在する構造が面白い、とのことだった。

 締めは発行者、烽火書房の嶋田翔伍さん。
「たやさない」は「蜂火書房」発行だと思いこんでいたのだが、こちらは“hoka books”というレーベルだ、ということを知る。慌てて通販サイトの記載内容を修正した。奥付をちゃんと見てないことがばれる。

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言葉の庭 [本・雑誌あれこれ]

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(鯨庭/リイド社)

 薬研は、みんなが言葉をぞんざいに扱うので憤っている。
 東雲は、人が言葉に込めた思いが獣の姿として見える。
 一般の「頑張れ」は、人懐っこい熊のような姿だったが、薬研は「頑張れ」を兎によく似た姿でとらえていた。
 ふたりは、「言葉の生息地」を訪れるようになる。

「頑張れ」に続いて取り上げられる「誹謗中傷」などの(なぜそういう姿をしているのか、という)解釈 * にいちいち膝を打つ。薬研と同じように、言葉に対する不誠実さにイライラしている人は強く共感できるのではないか。

 ふたりともどうやらクラスでは浮き気味のようなのだが、そこの辛さは強調されていない。
 東雲が詩に目覚めたときのエピソ一ドは、むしろ希望を感じさせる。

 この作品を知ったのはついこないだなのだが、発売されたのは五月である。俺は半年も何をしてたんだ、と思った。
 二巻が二月に発売されるようで、今から楽しみである。

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ふたりのアフタースクール [本・雑誌あれこれ]

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「ZINEを作って届けて、楽しく巻き込む」
(太田靖久、友田とん/双子のライオン堂)

 前向きな言葉が並んでいて、筋金入りのペシミストである俺にはちょっとまぶしい感じもした。
 と言って、猪突猛進というわけでもない。理詰めではないが、自分の考えや感性に従ってきちんと判断を重ねている。
 この本でも触れられているが、思いだけで突っ走りがちなタイプの人は読んでみるといいと思う。
 書籍発行者として ISBN を取得するとき、10 点分と 200 点分がある、などの実務的な情報も役に立つだろう。

 この本は時期を変えて何度か行われたイベントの採録で、2回目以降の冒頭では前回のまとめのようなパートがある。そこにエッセンスがまとまっており、重要な部分が何度も繰り返されることになる。書籍として狙ったわけではないかもしれないが、ある意味、親切な構造である。

 太田氏が、コロナ禍の時に ZINE の発行を躊躇したら、仲間の書き手に「日和ってるのか」と言われた件が印象に残る。やっぱり、何かを書こうと考える人は、そういう意志の強さを持っているのだ。

 書店営業に行ってお互いの本を見かけるたびに意識してるのだが、根本要(STARDUST REVUE)の「スタレビは全国を丁寧に回っているが、ここには来てないだろう、という町にも、必ずさだまさしは来ている」という得意ネタを思い出した。

 友田氏が全国の書店に営業をかけた話で、「北は秋田から、南は~」という表現が何度か出てくる。秋田というのはうちのことだと思うのだが、ほかの本でもこういうケースはあって、なぜほかのお店は入れないんだ、うちごときが境界線ってどうなんだ、といつも思う。
 そういや先日、ある雑誌の巻末にある「バックナンバーが買えるお店」の一覧からこぼれたのだが、そんな店が何を偉そうに、って話ですね。すいません。

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言葉だけの地図 [本・雑誌あれこれ]

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(宮崎智之×山本ぽてと/双子のライオン堂)

 最寄駅から様々な書店への過程を地図を使わずに言葉だけで表現する。
 書き手は二人だが、編集者からは駅の異なる出口を使うように指定される。
 ある程度の距離があればいいが、中には改札から見える書店もある。
 印刷した地図には駅の出口が書かれていなかったりして、書き手がどちらも苦労しているのが可笑しい。
 そして、基本的には店に着いたらおしまいで、店主とのやり取りなどはほとんど書かれていない。一貫している。

 それでもいろいろな事柄が書き込まれている。その場所にいた人の描写、街並み、その土地に関する記憶、連想からの連想。
 我々もきっと歩きながらそんなことをあれこれ考えているはずなのだが、それを書き残せるかどうかは大きな違いだ。

 町として一番興味が沸いたのは谷保だが、読みながら、著者と同じく、保谷と混同していたことに気づいた。

 行ったことがある本屋は2軒。すでに4年くらい経っているから、かなり変わっているはず。というか、これを読んですでに「あー変わってるわ」となっている。
 行けるうちに行きたい。今年はすでに無理なので、来年か再来年か、ということになろうが、その時にどれくらい変わっているだろう。
 それまでに、双子のライオン堂の扉はどうやって開けるのかを調べておこうと思う。


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水と茶 [本・雑誌あれこれ]

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(斉藤 志歩/左右社)
 帯で「とにかく、作者が楽しそう」とあるが、まさにその通り。
 絵がすうっと浮かんで、くすっとなったり、ふふっとなったりする句が詰まっている。
 細かいことを俺が語ってもしょうがないので、お気に入りの句をいくつか。

再会や着ぶくれの背を打てば音
けふは肉あすは魚に年忘
正月を寝てなだらかに背の起伏
ほほゑめりかるたのうたのわからねば
桂馬失せ炬燵の下に見つからず
遠足や眠る先生はじめて見る
ベランダより戻る電話を切りし顔
大かぼちゃ刃を抜かうにも切ろうにも

 俳句って難しいものではないようですよ。


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文にあたる [本・雑誌あれこれ]

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(牟田 都子/亜紀書房)

 先日、読書実況で取り上げ、その後、実況録の公開は終了したが、もったいないので再構成して感想文の形にする。
 読書実況録を時限公開にするのは、「実況」なので、その時々で思ったことを、全体を見ずに逐次書くことになるからである。フィクションにおける重要な伏線など、読み通した後に書くんだったら触れずにおくであろう内容まで書いてしまう危険がある。後で編集すればいいじゃん、って話もあるだろうが、それをしたら「実況」ではない、ということでこの形にしている。


 もし(強引ながら)まとめるとすると、「プロとは」ってことになるのではないだろうか。
 著者が「プロです」などと威張っているわけではないが、やはり色々なところににじみ出てくるし、読者が考える材料もたくさんある。

「校正家は物知り」というのは「翻訳家は辞書を引かない」と同じ勘違い。プロだからって必要な知識をすべて記憶しているわけではない。プロは、自明と思われることも確認するし調べまくる。プロらしさを挙げるとするなら、そのための手段、第一歩のとっかかりを、プロでない人よりは多く持っている、というところだろう。
 あと、長い期間にわたってがっつりやっていることによってはぐくまれる「勘」。
 15p にもわたる函数表の校正で、「ゆるやかなカーヴをえがいて上下する曲線を描」いていた数字の列があるところで「そこだけとぎれる」と感じられ、それで間違いを見つけた、というエピソードがあるのだが、これだよね。
 校正に限らず、「疑う力」って必要なのではないか、と思う。「本当に?」っていう感覚。記憶に頼る、っていうのはその正反対だよね、きっと。
 具体的な作業については何度か言及があるが、「目を瞑っては」の、物語の主人公が東京を走り回る話で、道路地図をコピーしてマーカーでその足取りを確認して、OK とゲラを戻したら、「ここは、土日は一方通行で通れない」と返された話は、申し訳ないが、笑ってしまった。

 なにかのプロと、そうでない人に勧めたい。

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山學ノオト3(二〇二一) [本・雑誌あれこれ]

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(青木 真兵、青木 海青子/H.A.B.)
 奈良県東吉野村の私設図書館「ルチャ・リブロ」を運営する二人の、2021 年の日記。
 何度も言っているが、ちゃんと感じて、ちゃんと考えている人の話は良い。全部を理解できるとは言わないが、ずっと読んでいたい。

「書く」ことについての言及が多い。
「伝えたいことが二つ以上あるのに、それを一つだと思って書いていると伝わる文章が書けない」とか、「あ…」っていう感じ。「書く」前の段階から「書く」ことは始まっている。

 一番、ささったのは、これ:
「人文知の拠点」を名乗っちゃうと、面白い人が来てくれて「人文知の拠点にしてくれる」ことを実感。

 隣町珈琲という喫茶店が何度か出てくるのだが、いい名前だと思った。遠くはないがよく知っているところでもない。本屋も隣町的な存在である。
「隣町書店」――いいかも。

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ちょっと本屋に行ってくる。 [本・雑誌あれこれ]

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(藤田 雅史/isseance)
 帯にある通り「本にまつわる脱力エッセイ」。著者は小説家・脚本家。
 軽妙というのとは違う、読んでて楽しい文章。もちろん、読みやすい。

 風呂で本を読む、というのにはちょっと首肯しかねる(1年以上前の漫画雑誌を、捨てる前にもう一度、と風呂で読むことはある)が、浴槽に落としてしまった場合、どんなに急いで拾い上げても、拾い上げた手や腕から水が流れるのでどうしようもない、というのには、おそらく実体験で気の毒ではあるのだが、その描写の細かさに笑った。

 本をプレゼントする、というエピソードがある。昔の恋人の話だったが、俺も若かりし頃、お付き合いをしてた女性に本をプレゼントした。絵本にしたのだが、それがまぁ、呆れれるのを承知で白状すると、エドワード・ゴーリーである。ゴーリーが好きな人ならいいけどさぁ、でもなぁ、って感じ。
 一応、ブラックすぎないものを、かなり時間をかけて選んだつもりではあるが、あれは「ゴーリーをプレゼントする自分」に酔っていたのではなかろうか、と思う。

 読書用の部屋に「音楽を聴くためのスピーカーを購入した」とあったのだが、この表現から想像するに、作者はスマホで音楽を聴く人なのだろう。
 俺はきっとラジカセを買うと思う。外部入力端子があれば完璧。尤も、音楽を聴きながら読書、が辛い年齢になったようではあるのだが。
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 この遊び心が好き。どういう遊びかは店頭で。
 この栞がこの頁に挟まっていない場合、その書店の商品管理に疑問を持ってもよい。まぁ、直前に触った他のお客さんが動かしたのかもしれないが。


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百木田家の古書暮らし [本・雑誌あれこれ]

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(冬目 景/集英社)
 祖父が経営していた神保町の古書店を引き継ぐことになった三姉妹。
 長女は会社員、三女は高校生、店をやるのは次女で、彼女が主人公らしい。帯では「群像劇」と謳っており、確かにそうなのだが、『イエスタデイをうたって』もそうだったし、作者の得意な形態なのかもしれない。
「大好きな本に囲まれて仕事ができる」と言うだけあって、本に詳しい。尤も、「職場の妙な人間関係で心が死ぬこともない」とも言ってたりするが。
 妙な人が何人かいて、隣で店をやっている男と、姉妹の父親がその筆頭かと思うが、中心にいるキャラが至ってまとも。『空電ノイズの姫君』『空電の姫君』もそうだったように思う。これも作者の特徴だろうか。
 古書店の内側の話は楽しく読める。「『これはうちの子(店頭に並べてはあるけど、売れてほしくない、できれば手元に置いておきたい、という本)』問題」は、店を自分の第二本棚にしている気配のある自分にもよくわかる。
 そして、作者が特撮もイケる人だとわかったのがとってもうれしい。

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